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  • Takashi Yonezu

企業解散・事業譲渡における雇用と法人格の濫用(2)


<労働法における法人格濫用法理の再構成>

 以下では、労働法における法人格濫用法理についてのいくつかの基本テーゼについて説明し、そのうえで、かく理解される法人格濫用法理に係るいくつかの論点について述べる。

1 法人格濫用法理の規範構造と判断枠組

 法人格否認法理を労働法の問題状況に対応するかたちで発展させた法人格濫用法理の規範構造および判断枠組の要点は以下の通りである。

<要点1> 

 法人格否認法理の2つの類型のうち形骸化類型は、法原理的に濫用類型に包摂されるとの理解(法人格の形骸化=法人格の完全支配)を前提に、労働法における法人格否認法理を、より汎用性の高い一般法理としての「労働法における法人格濫用法理」として再定式化する。

<要点2>

労働法の法理として再構成した法人格濫用法理は、支配要件と目的・態様要件の相関関係的な評価に基づく濫用判断の枠組みとして理解される。事案ごとに多様な「支配」と「目的・態様」のあり方・両者の相関関係に応じて、法人格濫用における法的無価値・違法の程度の高低が評価的に確定され、同評価枠組みに基づき、請求の内容(地位業員としての地位確認、未払い賃金、損害賠償請求等)と相手方(親会社、譲受企業、別子会社、委託企業・派遣先企業、役員個人)ごとに帰責の可否を判断する。

<要点3>

 支配会社たる親会社等主導の下に子会社等の従属会社が解散し、その事業が別の子会社に移転する場合の包括的雇用責任については、上記判断枠組みに従いつつ、事案ごとに親会社および別子会社についての帰責の可否を判断する。法人格濫用の程度が高い「顕著な濫用」については、事業を引き継いでいない親会社等であっても包括的雇用責任を負う。

<要点4>

私法学上の法理を出自とする法人格濫用法理は、その規範構造の類似性ゆえに行政救済を含む不当労働行為法の判断枠組みにおいても有用性をもつ。

(1)法人格否認法理を包摂する法人格濫用法理

 「労働法における法人格濫用法理」の規範構造を、以下、具体的な法的救済における請求内容と関連付けつつ整理をしよう。

 同法理は、「濫用法理」であり、濫用の主体と客体を前提とする。濫用の主体は支配会社等である。客体は従属会社等の法人格である。主体たる支配会社等が、濫用の客体たる従属会社等の法人格を道具的・濫用的にこれを利用することで、法人格濫用の当事者にとっては契約外第三者たる従属会社の従業員労働者の雇用上の地位に関わる法益が違法に侵害される、というかたちで法的関係が成立する。

 法人格否認法理の2つの類型のうち形骸化類型は、法原理的には、支配要件と目的要件の充足によって成立する法人格濫用の類型に包摂される[1]。すなわち、法人格の形骸化とは、法人格の完全なる「支配」を意味し、従属企業はその完全従属ゆえに法人格の独立性を論じる余地のない状態にあることを意味する。

 法人格濫用法理は、従来の法人格否認を基礎としつつも、その法原理的な本質を、法人格の形骸化を含んで、支配と目的・態様との相関関係的な評価を通じた法人格の濫用の存否及びその程度の判断にあると理解する。その上で、例外法理として過剰に謙抑的に解釈され、本来同法理が発展すべき中心的な法領域であったはずの労働法においてさえもその成熟化が果たされずに来ているとの認識にたち、従来の労働法における法人格否認法理よりも、より柔軟な解釈適用が可能な法理として理解する。従って、「労働法における法人格濫用法理」は、法人格否認法理よりも概念的には広く、前者は後者を包摂する関係にある。法人格濫用法理は、法人格否認法理のように、(当該法的関係についてのみであるといえ)法人格を否認し、支配企業と従属企業従業員との直接の契約責任関係を肯定する場合もあれば、そこまでの効力は認められず、損害賠償請求の法的根拠にとどまる場合もある。

 かくして、「労働法における法人格否認法理」は、法人格否認法理を基礎にしつつ、労働法の分野、とくに企業変動・複数労働関係をめぐる法的問題についての、よりシンプルかつ柔軟な規範構造をもち、個別事案における裁判官の裁量的判断の余地が与えられた一般法理として再定式化されることになる。

(2)被侵害法益・請求内容に即した「支配と目的・態様」要件のグラデーション構造とその相関関係評価

 労働法の法理として再構成した法人格濫用法理は、支配要件と目的・態様要件の相関関係的な評価に基づく濫用判断の枠組みとして理解される。事案ごとに多様な「支配」と「目的・態様(被侵害法益を含む)」のあり方・両者の相関関係に応じて、法人格濫用における法的無価値・違法の程度の高低が評価的に確定され、同評価枠組みに基づき、請求の内容(地位業員としての地位確認、未払い賃金、損害賠償請求等)と相手方(親会社、譲受企業、別子会社、委託企業・派遣先企業、役員個人)ごとに帰責の可否が判断される。

 「支配」要件は、グラデーション構造をもち、形骸化を意味する完全支配を一方の極として、次に、企業としての「実質的同一性」を語りうる程度の支配、さらに実質的同一性までは認められないが、「現実的かつ統一的な支配」を語りうる水準、さらに主として資本関係を中心とした一般的な「支配」へと、その支配の程度に濃淡がある。この場合、支配の水準・程度は、資本関係のほか、役員関係、経営管理・人事労務の実態、解散・事業譲渡等企業変動の経緯等、その他の事情を検討するなかで確定される。

「目的・態様」要件は、労働法の領域では不当労働行為や解雇制限などを潜脱する意図で法人格を用いる場合にこれが充足されることになる。この要件においても、その充足の程度におけるグラデーションが問題になる。一般的に不当労働行為は高水準の充足度を意味するが、当該の不当労働行為が解雇等の不利益取扱いなのか、団交拒否なのか、また不当労働行為の程度、悪質性の程度といったことが問題になりうる。そして、目的・態様における不当性・無価値評価の程度が高ければ高いほど、支配要件充足における要求水準が低くなり、逆に目的・態様における不当性・無価値評価の程度が低い場合、なお法人格濫用というためには、高水準の支配要件の充足が要求される。

 解雇法理の脱法行為があったか否かは、事業譲渡に至った経緯、事業譲渡の内容(事業組織の同一性の程度)、譲渡会社の経営悪化の状況(有無/程度)、譲受会社における採用手続き、移転した労働者の割合、排除された理由、当該労働者の具体的事情、譲受企業の労働条件、譲受企業の脱法意図の有無等、諸般の事情をもとに判断される。大部分の労働者が譲渡先に移転している場合は実質的な同一性の程度が高いと評価されるので、事業譲渡における特定労働者の排除が解雇法理の潜脱との推定を免れるためには合理的根拠の提示が求められる。

 「支配と目的・態様」の相関評価に基づく濫用の可否の判断は、請求内容ごとになされるものであり[2]、請求内容が支配企業等の名宛人の法益侵害の程度が高ければ高いほど、支配と目的・態様の相関的な充足の程度もより高度のものが必要となる。同じく雇用に係る責任といっても、未払賃金に対する責任か包括的雇用責任か、あるいは得べかりし賃金についての損害賠償か慰謝料請求か、ではそれぞれ要求される濫用の水準が異なるということである。こうした理解は、もともと法人格の否認が「当該事案限りで否認する法理」[3]であることによっても正当化されよう。

 支配関係も強度なものではなく、また法人格利用における目的・態様の法的無価値要素がなく、したがって濫用との評価ができない場合、EU/ドイツ法とは異なり労働契約当然承継ルールが法律上存在せず特定承継・合意承継説を採用する我が国の通説判例を前提とするかぎり、労働契約の承継を肯定することは、「労働法における法人格濫用法理」をもってしても不可能ということになる。従って同法理には解釈論上の限界があるとの批判は甘受せざるを得ない。

いかなる請求内容(責任内容)について、どの程度の「支配と目的・態様」要件の充足があればよいのかについて、今後の判例の蓄積を待つべきであるが、たとえば支配の程度が形骸化までは至っておらず、企業あるいは事業の実質的同一性が認められる程度の支配があれば、組合排除の不当労働行為が認定されることで包括的雇用責任をめぐる争いにおける法人格の濫用が肯定されると解される。また、実質的同一性まではいかなくとも、現実的・統一的な管理・支配が認定されれば、少なくとも未払賃金請求や得べかりし利益を含む損害賠償請求が認められる可能性は高い。法人格否認法理の三部作判例に即していえば、中本商事事件の神戸地裁判決は、実質的同一性が認められる程度の高度の支配があり、不当労働行為意思の認定とあいまって包括的雇用責任が認められた例であり、船井電機事件・徳島地裁判決および布施自動車教習所・長尾商事事件の大阪地裁判決は、企業としての実質的同一性までは認められないが、親会社による子会社の現実的・統一的な支配により、子会社が実質上親会社の一製造部門と見られ、親会社による支配が子会社の労務関係にまで及ぶような場合について、労働組合壊滅の目的の認定と相まって、包括的雇用責任が肯定されており、それらはいずれも法人格濫用法理が許容する裁判官の裁量権限内での判断であったと思われる。

 こうした理解は、派遣元労働者に対する派遣先企業の雇用責任や、専属的下請企業の労働者に対する元請企業の責任について、現状の膠着した状態を克服し、法人格濫用の見地からする新たな責任根拠を提供するものと思われる。


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