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新型コロナ対策と法治主義   

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コロナ禍における各種の対策においては、法治主義の原則が軽視された。9月の日本産業保健法学会で私が座長を務めるセッションで登壇いただく磯部哲教授(慶應大学法科大学院)は、当時内閣官房に設置された対策分科会(尾身会長)の委員として、政策決定の中枢にありながらこの問題を指摘し、人権侵害の歯止め役として重要な役割を果たしてこられた。


多くの方はもうお忘れになっているかもしれないが、感染症法に基づく入院について、令和3年2月の改正は、入院勧告や入院措置に違反した場合に行刑罰を科したが、これは、同法が非権力的な手法を重視し、個人の健康を向上させることによって感染症まん延防止と公衆衛生向上を図る同法の基本理念との整合性が問われるものであった。また、新型インフルエンザ等対策特別措置法は、令和3年の改正を経て、緊急事態宣言下と同様の措置を可能とする「まん延防止等重点措置」が新設され、立法府の関与なく(都道府県知事の取り得る重点措置の内容、期間、範囲などについて法律上何らの限定もない)、行政の判断のみで、しかも罰則付で人権を制約する各種措置が可能となった。


ワクチン接種歴や陰性の検査結果をもって飲食店や各種イベント等の行動制限を緩和するワクチン・検査パッケージ制度は、結局機能しないままに終わったが、これも人権制約としての側面が十分に議論されなかったし、またワクチンの打ち手について、医師法の”超法規的解釈”によって、医師や看護師以外も接種が可能とされた。磯部教授は、それらを総括し、コロナ禍においては法治主義が軽視され、我が国の法治国家としてのレベルが問われている、と批判している。

(「新型コロナウイルス感染症と法」学術の動向2022/3). https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits/27/3/27_3_34/_pdf/-char/ja


私の印象では、当時、人権派と目されている政治家や法律家は、むしろ社会防衛に過度にウエイトを置き(その効果も今となっては疑問視されている)、緊急の特別な状況なのだから人権の制約やむなし、とのスタンスが目立ったように思う。そして、その後徐々に明らかになってきたコロナワクチンをめぐる問題についても、これを軽視する医療専門家に追随し、今なお素通りする方が少なくない。そうした中にあって、政府による政策決定に近い場に身を置きながら、人権保障の重要性を説き続けた磯部哲教授の活躍は特筆に値する。  


9月の私の学会報告では、新型コロナワクチン健康被害を労災法理の観点から検討するが、その際、上記のような法治主義が蔑ろにされるような社会状況は、業務上外認定や損害賠償における因果関係論にも直接・間接の影響を及ぼす。


(Aug.3 2025)

 
 
 

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yonezu takashi
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